さよならピアノソナタ

剣も魔法も、超能力者も未来人も宇宙人も出てこない、ファンタジー色を排したお話を読みたくて、前知識等一切無しで本屋で買ってきました。こういう出会いがあるのが本屋の良いところですね。

ある問題から周囲に心を開かない少女。その少女と楽器の演奏を通じて心を通わせようとする主人公。そんな二人のおとぎ話です。
山あいの不法投棄されまくったゴミの海の真ん中に完全な演奏ができるピアノが捨ててあるとか、あり得ないような舞台装置が揃ってしまうような強引な展開は、まぁラノベだしってことで許容するとして、ストーリーラインの追わせ方とキャラの立て方がどうにも不十分なのです。300ページ以上あり、作中でもそれなりの時間が経過しているのに、一向にキャラの考え方であるとか葛藤であるとか心の機微であるとか、そういうものが伝わってこないのです。
こうあって欲しいというストーリーラインがあり、そこへ沿って周囲のキャラクターが適切なタイミングで適切な発言をするように配置されているような希薄さを感じます。脇役キャラにもいろいろと面白げな設定がされているのに、それを生かすようなバックグラウンドを感じないのです。10年間同じクラスの幼馴染の女の子とか出てくるのに、扱いはクラスメイトその1程度なのは理解しがたいです。
あと文章に明るさが無く、ひたすら淡々としているので、読んでて疲れてしまいます。主人公の一本調子っぷりを追うのではなく、サブキャラの話を交えるなどの緩急が欲しかったところです。
ただ文章の表現は丁寧で、伏線の張り方、回収の仕方もよく注意を払われていると感じました。文句を付けつつも最後まで読み通す気になったのは、後半以降テンポが良くなったのもありますが、丁寧な表現に好感を持てたからでした。
続刊が出ておりますが、この巻はこれで完結するように作られているので、いろいろと削って詰め込んだのかもしれないですね。ここからどういう展開に持っていくのか楽しみではあるので、次巻も読んでみようと思います。